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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)244号 決定 1964年6月29日

抗告人 荏原青果市場信用組合

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は「本件収去命令における収去の目的たる抗告人所有の本件建物には申立外の有限会社東北精器その他多数の賃借人が居住しており、これら占有者に対してその明渡を命ずる債務名義は存在せず、従つて、抗告人においては任意にこれを収去する意思はあるけれどもその現実の実行は不能であり、又本件収去命令による収去の実行も不能である。

かような場合収去命令を発すべきではなく、仮に発しうるものとしても、その収去費用を予め支払わしめる決定は執行債権者に不当の利得をさせるものであるから、これを発すべきではない。仮に発しうるものとしても原決定の支払を命ずる収去費用額は不当に高額である。

よつて原決定の取消を求める。」というものである。

しかしながら、基本たる債務名義により執行債務者たる抗告人が執行債権者に対し本件建物を即時収去すべき義務を負担する以上、その強制執行のため建物収去命令を発することができることは民法第四百十四条第二項本文、民事訴訟法第七百三十三条第一項の規定により明らかであり、右建物を第三者らが賃借占有中で、その者らに対する債務名義がないためそのままでは事実上建物を収去することができない虞があるとしても、これにより抗告人の右建物収去の義務が消滅又は猶予されるものではなく、債権者と第三者らとの間の関係はその者らの間で別途に処理決定されるべきものであるから、右第三者らが本件建物を占有中であるということは抗告人から本件建物収去命令の当否を争う理由とはなしえないものであり、既に右収去命令が適法である以上、予め執行債務者にその収去費用を支払わしめる決定をなしうることは同条第二項本文の規定により当然である。

そして記録によれば原決定の抗告人に対し支払を命ずる収去費用額は一応相当と認められる。

従つて原決定は適法であり抗告理由はいずれも採用できない。

よつて、本件抗告を理由なしとして棄却すべく、主文のとおり決定する。

(裁判官 小沢文雄 仁分百合人 渡辺惺)

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